役立つ歯のコラム
突然、歯ぐきが腫れた!知っておきたい7つの原因と対処法

記事概要
“突然、歯ぐきが腫れた!”という経験はありませんか。歯ぐきの腫れにはそれぞれの原因があり、対処法が異なります。原因を見誤ってしまうと腫れは解決しません。今回は歯ぐきが腫れる7つの原因とその対処法についてご説明します。
1はじめに
本ブログは、患者様から寄せられたお悩みへの回答を中心に、皆様にぜひ知っていただきたい大切なお話を、できるだけ分かりやすくまとめて記事にしています。
今回は、患者様からのお悩みではなく、よくある歯科治療の現場の問題を例に、特に知っていただきたい事実をご説明いたします。今回のブログは歯ぐきの腫れに関するお話です。よくご相談いただくのは、“突然歯ぐきが腫れて心配”というお声です。歯ぐきの腫れにはそれぞれの原因があり、対処法が異なります。逆に原因を見誤ってしまうと腫れは解決しません。とても大事なお話ですので、最後までお読みいただければと思います。
2歯ぐきが腫れるということは炎症が起きているという事。
突然、『歯ぐきが腫れた!』という経験はありませんか?急に歯ぐきが腫れたことがある方もいると思います。さらに、そこに痛みが生じると、更に不安になりますよね。
このようなご相談も多いので、今回のブログ記事では『突然起こる、歯ぐきの腫れの原因』についてご説明したいと思います。ぜひ、最後までお読み下さい。
歯ぐきに限らず、体の一部分が腫れている状態というのは炎症が起きているということなのです。
炎症が起きているということは、必ず炎症を起こす原因が存在します。火種の無い所に煙は立たないのと同じです。かならず理由がありますので、まずは、その原因を正確に知る必要があるのです。
そして、歯ぐきの腫れに限らず、炎症が起きている原因が分からないと、診断もつかなければ治療も行えません。
よって、歯ぐきが腫れてしまった時には、一も二も無く、そこで何がおこっているのかの原因究明をするべきなのです。
しかし、この原因を突き止めるには、正確な診査・診断が必要なのは言うまでもありません。診査・診断は、歯科医師の知見や機材に左右されます。
この診査・診断には、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)とCTスキャンが非常に役に立ちます。歯科用顕微鏡で拡大し口腔内を確認することで、暗く狭いお口の中で何が起こっているかを見つけることができます。CT画像と併せて診断すれば、その精度は更に高まります。実際に病巣があっても、レントゲン写真では見えないことがあり、レントゲンで確認できない病巣を、CTで確認することができることも多いです。医科と同じように、歯科治療でも、もはやCT無しの診断はあり得なくなってきています。
患部を歯科用顕微鏡で拡大して見ることで、肉眼(および拡大鏡など)では見え難い部分のむし歯に気付けたり(歯と詰め物・被せ物との繋ぎ目・隙間、むし歯の取り残しも含む)、ヘアラインクラック(肉眼では見えないくらい細いヒビ)という細いヒビを確認することができたり、歯肉縁下の歯石の取り残しや、歯垢が上手く落ちていない部分が見えてきたり、場合によってはコーンケーブ(歯の表面のくぼみ)などの歯の形態に足を引っ張られて歯垢が落ちていないのが見えたりします。
これらは、歯科用顕微鏡を使わないと見えづらい部分です。顕微鏡を使う事により、明らかに、口腔内の情報をより多く得ることができます。それによって成功率が高く、信頼性の高い治療ができるようになります。
『歯ぐきが腫れる原因』の診査・診断にも歯科用顕微鏡とCTは大きな力を発揮してくれます。
歯ぐきの腫れは、原因によって対処が異なります。抜歯しなければいけない状態のこともありますので、信頼できる歯科医院で診断していただくことをお勧めします。
それでは、突然歯ぐきが腫れてしまう原因として、主に考えられる原因を7つに絞って説明していきます。
3炎症の原因(1):むし歯
まずは、むし歯です。
むし歯は、その重症度によってC0〜C4というよう段階で分類されます。むし歯がC3やC4まで進むと、むし歯菌が歯の神経に入り込み、歯の神経が炎症を起こします。そのことにより、歯の根の周りまで炎症が波及し歯ぐきが腫れてきます。
これらは、むし歯が歯の中深くまで進んで起こる場合もありますが、二次カリエス(むし歯の再発)や、治療時にむし歯を取り残して起こるケースも多いです。
また、むし歯治療時に神経がわずかに露出しているのに気がつかず、そのまま詰め物や被せ物をした後に神経が炎症を起こして腫れてくることもあります。
診断名で説明すると、これらの状態は、(歯髄が生きている)急性の歯髄炎か、(歯髄が死んでいる)急性の根尖性歯周炎という状態です。
又、一見、深く進行したむし歯には見えず、症状がない状態であっても、すでに歯髄にむし歯菌が入り込んで炎症を起こし始めていることもあります。
特に、歯髄炎の場合には根尖性歯周炎ほどは腫れません。触れた時に痛いくらいで、見ため的にはほとんど腫れがわからないことが多いです。
この場合の対処法は、根管治療(歯の神経の治療)が必要になります。痛んだ歯の神経を取る、もしくは歯の神経が死んでいる場合にはバイ菌で汚染された神経の通り道を消毒し、炎症を改善します。
根管治療は難しく、日本では成功率が低いのが現状です。(※データの根拠はこちら)根管治療の成功率を上げ、歯ぐきの腫れを再発させないためにもラバーダム防湿、CTによる診断、歯科用顕微鏡を使った根管治療が必要です。
4炎症の原因(2):根管治療が不十分
次の原因として考えられるのは、歯の神経を取る治療である根管治療が不十分なケースです。
重症化したむし歯には根管治療が必要となりますが、歯の神経の通り道(根管)は皆さんが想像する以上に複雑で、歯の神経を綺麗に採ったり、根管の隅々までを殺菌・消毒するのは困難を極めます。
そのため、殺菌・消毒が根管の中でいきわたらず、バイ菌が根管内に住みつき、歯の根の周りが化膿して歯ぐきが腫れてきます。つまり、①根管治療時に歯髄が取りきれておらず残髄炎を起こしている、②根管の感染が取りきれていない、③根管充填が足りずにデッドスペース(すき間)ができ、そこで細菌が繁殖している等が考えられます。
つまり、炎症の元凶は細菌です。
細菌がいなければ炎症はひどくなりません。
ですから、これまでも何度もブログで書いてきたとおり、治療時の感染対策が重要なのです。
実に基本的な事であり、何度も繰り返しになりますが、①ラバーダム防湿、②滅菌された機材、③適切な消毒剤と④適切な消毒方法などが大事なのです。
炎症というのは、基本的に細菌との戦いです。
むし歯や歯周病は細菌が大きく関与します。
そのため、上記で述べた①〜④が十分徹底できなかった場合には、そこに根管の複雑性が加わり、根管治療の成功率を下げてしまいます。結果、歯ぐきが腫れてしまうという事が起こります。
※日本の根管治療の成功率は30〜50%です。(※データの根拠はこちら)無症状でも、根管治療が上手くいっていない事も多く、しばらくしてから歯ぐきが腫れて痛みを起こしてくることも多々あります。また、①〜④以外にも大事なポイントがあります。
それは、CT画像を用いた根管の通り道の診断および、実体顕微鏡を覗きながらの治療です。
当院は、歯科用顕微鏡を用いた根管治療を専門に行なっておりますので、ただ覗いているだけでなく、高倍率を維持しながら治療していきます。通常は、高倍率は状況の確認用に使われる事が多いのですが、当医院は最大倍率(肉眼の30倍)で視ながら治療を行います。ただし、高倍率での治療は特に難しく、熟練を要します。
当医院では治療の全てを録画し、治療後に液晶モニターに再生して説明をしています。モニターでの説明は重要で、歯科用顕微鏡にて、大きく拡大しないと状況を説明できませんし、状態のチェックだけ(チェッキングビュー)ではなく、顕微鏡を覗きながら治療している(ワーキングビュー)ことも証明できます。確かな顕微鏡治療かを判断する参考にしていただけるかと思います。
関連ページ
- 日本における歯の神経治療の現状 GO
5炎症の原因(3):歯周病
次は、歯周病です。
歯周病で腫れている場合は、重症な時が多く、あまりにも重症だと手のうちようがない場合も多くあります。
下記のデータを御覧ください。抜歯にいたる理由の1位が歯周病です。それほど、歯周病が重症化してしまうと助けられないことが多いのです。

重症化した歯周病は、歯を支える歯槽骨が溶け、それに伴って歯周ポケットが深くなります。このように、歯周ポケットが深くなると、歯の周りに細菌が溜まって歯ぐきが化膿して腫れやすくなるのです。
対処法は、歯周病治療を受けることですが、化膿するほど歯ぐきが腫れている場合は歯周ポケットが深すぎて、歯の根の表面に付着している歯石を肉眼や勘で綺麗に取るのはとても難しく、改善が見込めずに抜歯されてしまうこともあります。
なので、歯周病は進行させないよう、定期的なメンテナンスをすることが最も大切なのです。
歯周病の基本治療とは、ブッラシング指導(プラークコントロール)と歯肉縁下の歯石除去です。
ここでも、歯科用顕微鏡が活躍します。顕微鏡下で歯周ポケット内を覗きながら歯石を取る方法があります。肉眼やルーペ(拡大鏡)よりも歯根面が見えるので、より確実な改善が可能です。実際、顕微鏡を使って歯肉縁下歯石を取るようになってから、以前より歯周病の治りが良くなる患者さんが増えました。
一般的には、肉眼やルーペで歯肉縁下歯石をとるのですが、実際には見えていないので手指の感覚のみで取っており、結局は上手く取れていないというケースが多いようです。
特に、歯肉縁下歯石は歯根面に非常に強固に付いており、簡単には取れません。歯根面はコーンケープがあったり、凸凹があったりと非常に複雑で歯石除去の器具が届かないのです。
歯科用顕微鏡を使って歯石を除去するのは非常に難しいのですが、当院では熟練した歯科医師が顕微鏡下で歯肉縁下に付いている歯石を見ながら除去しています。顕微鏡下では、より確かな歯石の除去ができるのです。
きちんと歯石が取れることで、バイ菌がはびこりにくくなり、歯周病治療の予後は良好になります。
また、歯ぎしりが歯周病の進行に関わっていることがあります。負担軽減のために咬み合わせで強く当たるところを削ったり、マウスピースなどの歯ぎしり対策が必要なことがあります。
関連ページ
- 引用:抜歯の主原因(全体)と抜歯の主原因別にみた抜歯数(年齢階級別、実数)安藤雄一, 相田潤, 森田学, 青山旬, 増井峰夫.永久歯の抜歯原因調査報告書東京: 8020推進財団; 2005. GO
6炎症の原因(4):歯根破折
次は歯根破折です。
歯根破折とは、歯に過剰な力が加わって歯の根にヒビが入り、歯の根が割れてしまっている状態です。ヒビにバイ菌が入り込み、歯ぐきの中に膿を持ち歯ぐきが腫れてきます。歯ぎしりが関わっていることが多いです。
歯根破折は、割れ方が悪いと抜歯となります。特に、歯肉縁下の破折は、残念ながら抜歯です。歯肉縁上で割れた場合は、助けられる事が多いのですが、細いヒビが歯肉縁上から歯肉縁下に続いていることに気がつかないことも多く、気づかずに詰め物や被せ物をしてしまい、後から痛くなったり腫れてくることもありますので、破折は診断が重要です。
大臼歯のように歯根が2~3本あり、その一本のみにヒビが限局している場合には、歯の根を分割してヒビが入っている根のみ抜歯して、残りの根を温存する方法もあります。
しかし、歯根破折は肉眼やレントゲンでわかりづらく、CT画像と歯科用顕微鏡が診断に有効です。
一見、レントゲンではわかりづらくても、CT画像だと独特の透過像で見られ、確定ではありませんが歯根破折を想定する事ができます。そして、顕微鏡で強拡大で視認することにより、歯根破折を確定診断することができます。
もちろん、CTと顕微鏡があれば全て破折を発見できるというわけではありませんが、正しい診断ができる確率が上がります。
7炎症の原因(5):インプラント周囲炎
インプラント周囲炎でも歯ぐきが腫れることがあります。
インプラント周囲炎とは、歯が抜けた所に、チタン製のインプラントを埋め込んだ後で、そのインプラントの周りに感染が起こってしまい、インプラントの周りの歯肉が炎症を起こしている状態です。
怖いのは、インプラント周囲炎を起こすと、インプラントを支える周りの骨が溶けていってしまうことです。骨が大きく溶けてしまうとインプラントの周りに深いポケットができてしまい、歯肉に膿を持ち腫れてきます。
こうなると、対処法としては、インプラントを除去するしかありません。
第2の歯として、天然歯のようにしっかり噛める、新しい治療法として、インプラント治療は普及しましたが、インプラント周囲炎は切実な問題です。
しっかりとしたメンテナンスが重要です。
8炎症の原因(6):親知らず
歯ぐきが腫れるトラブルというと、親知らずが最も有名では無いでしょうか?
親知らずは、第三大臼歯もしくは智歯とも呼ばれます。一番奥に生えてくる永久歯ですが、傾斜して生えて来たりすることも多く、上手く生えきらずにバイ菌が溜まりやすくなって、親知らずの周りの歯ぐきが化膿して腫れることも多いです。それを智歯周囲炎と言います。
親知らずと手前の歯である第二大臼歯との間に食べかすや歯垢が溜まり、親知らずだけでなく、第二大臼歯もむし歯になってしまったり、第二大臼歯と親知らずの間の歯肉が炎症を起こして歯槽骨が溶けてしまうこともあります。第二大臼歯が親知らずによって抜歯になってしまうこともあるのです。
対処法は、通常は親知らずの抜歯です。
9炎症の原因(7):口内炎
実は、口内炎でも歯ぐきが腫れることがあります。
歯ぐきに口内炎ができると、口内炎の潰瘍部から細菌が感染し歯肉が腫れます。
口内炎は潰瘍ができるので、食べ物がそこにぶつかると痛みが生じ、潰瘍があるので細菌感染しますが、ひどく腫れることは稀です。自発痛というよりは、擦過痛で痛いです。歯の抜歯に繋がる事はないと思います。
対処法は、口内炎の原因によって変わります。基本的にはお口の中を清潔にし、うがい薬による含嗽、場合によっては抗生物質を投与します。
歯ぐきが腫れるのは色々な原因があります。治療の基本は正しい診断です。本ブログを歯医者さん選びの参考にしていただけたらと思っています。
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