記事概要
歯が抜けてしまった場合の治療の選択肢をご存知ですか?歯科医院の先生の勧めに従う方がほとんどだと思いますが、良く考慮して治療を選択いただけるよう、今回は「ブリッジ」と「インプラント」についてのメリット、デメリットをご説明します。
1はじめに
本ブログは、患者さんから寄せられたお悩みへの回答を中心に、皆さんにぜひ知っていただきたい大切なお話を、できるだけ分かりやすくまとめて記事にしています。
今回は、患者さんからのお悩みではなく、よくある歯科治療の現場の問題を例に、特に知っていただきたい事実を説明いたします。
歯が抜けて無くなった場合、審美性や噛み合わせの回復、また隣の歯が倒れてきたり対向の歯が飛び出して来ないようにするために抜けたところを人工物で補填します。今回は、歯が抜けた欠損の補填方法である「ブリッジ」と「インプラント」お話したいと思います。
2抜歯を余儀なくされた歯の、治療の選択肢は少ない
今回のブログのテーマは、多くの患者さんにとって、とても興味のあるテーマだと思いますので、簡潔にわかりやすく説明しようと思います。
ご自身の歯は、できるだけ残したいに決まっていますよね。
しかし、なんらかの原因で抜歯せざるを得ない状況も起こるでしょう。
歯が抜けてしまった場合の治療法は、ブリッジ・義歯(入れ歯)・インプラントがあります。
それぞれの治療方法にメリット・デメリットがあります。また、それぞれの歯科医院で歯を抜いた場合の欠損の治療の考え方が違う場合もありますので、患者さん自身も治療の選択肢について知っておくと良いと思います。
以前は、欠損部(抜歯した部分)の治療は、義歯(入れ歯)とブリッジだけでした。歯を削らない方法は、以前は義歯しかありませんでしたが、現在はインプラント治療も選択肢として加わりました。
義歯は、見た目の審美性や機能性(違和感の少なさ)などを考えると、ブリッジ、インプラント治療の次に(最後に)選択されることが多いと思います。
よって、本ブログでは義歯(入れ歯)については割愛したいと思います。
ここでは、以下の二つの治療方法『ブリッジ』と『インプラント』の治療予後に絞ってお話したいと思います。
ブリッジは欠損の両脇の歯を被せて、その被せ物同士を繋げ、歯の形をした橋を渡して咬み合わせを回復する方法です。古くから行われている治療方法ですが、ブリッジができるケースには限りがあり、長持ちさせるには様々なNow-Howがあります。
インプラントは欠損部に人工の根を植え込み、その根に被せ物をして咬み合わせを回復させる方法です。比較的新しい治療方法で、欠損の両脇の歯を削らずに済み、ブリッジができないケースでも対応できる事があります。
実際に、抜歯後の治療方法は、治療を受けている歯科医院の先生の勧めに従うと思いますが、皆様自身も、この2つの治療法のメリット・デメリットを知っておくことが、一番大事だと考えております。
まず、インプラント治療について説明します。
3インプラントの予後で一番の問題は、インプラント周囲炎
インプラント治療は、ブリッジと違って欠損の両脇の歯を削る必要がありません。
また、欠損した歯が多い場合や、欠損部の片側にしか歯が残っていないケースに有効です。ブリッジは、欠損部の両側に歯が必要で、このようなケースではブリッジでは対応できないからです。
ブリッジが対応できないとなると、通常は部分入れ歯となるところですが、インプラントは歯の欠損が一本から多数まで対応ができるため、この治療を選択される方が多くなったのです。
また、インプラント治療は、ブリッジのように、欠損部に補填された歯の咬み合わせの力の負担が土台となる欠損の両脇の歯にかかりません。
ここは、大きなメリットであると言えます。
欠損部の両脇の歯を削らない、欠損部の両脇の歯に負担がかからないことが大きな利点です。
実は、いいことずくめにみえるインプラント治療にもリスクがあります。
それは、インプラント周囲炎です。
最近では、マスコミにも取り上げられるようになり、術後のトラブルが問題視されています。インプラント周囲炎は、インプラント体を埋めた周りの組織が炎症を起こしてしまう病気です。インプラント周囲炎は、進行するとすぐ骨髄炎を起こしてしまう可能性があります。骨髄にまで及ぶ重度の感染症を引き起こしてしまうと、インプラントを除去しなければならなくなります。
もう少し、インプラント周囲炎について説明いたします。
もともと、インプラント治療が盛んに啓発され始めた頃、いわゆる天然歯に発生するような歯周病と同じような症状は、インプラント体を埋めた周囲には起こらないと考えられていました。
そのせいか、インプラント治療の活発な啓発活動と同時に、手術後メンテナンスについての啓発は希薄で、あまり重要視されてこなかった現実があります。
そのため、一般的に患者さんの関心も知識も薄く、現在の深刻な状態になるまで話題に上りませんでした。
インプラント周囲炎は、このようにして起こります。
手術で埋めたインプラント体にプラークが付着することで、周囲粘膜にも歯肉炎と同じように炎症が発症します。さらに困ったことに、インプラントの周囲は天然歯に比べ防御機能が弱くなっています。当然のことながら、血管なども通っていないわけですから当たり前の事です。そのため、通常の歯周炎に比べて症状は急速に進行すると言われています。
今のところ、インプラント周囲炎には解決方法が確立されていません。もちろん、全てのインプラントがインプラント周囲炎を起こすとは限りませんが、そのリスクを理解した上でインプラント治療を受けるべきだと思います。
4ブリッジのデメリットは歯を削ることとむし歯の再発
『ブリッジ』という治療法は、その名のとおり、欠損した(抜歯した)両脇の歯に歯を被せて橋をかけるようにして、欠損部を補う方法です。
ブリッジは、インプラントと違い手術をする必要がありません。体の中に人工物を入れる必要がないので、体への負担が少なくて済みます。また、ブリッジは義歯(入れ歯)と違い、歯に接着剤で留めるので取り外す必要がありません。
インプラント周囲炎を起こした場合は、インプラントの植えた根自体を手術で除去しなければなりませんが、ブリッジは土台の歯が歯周病を起こしても、インプラント周囲炎と違い、歯周病の治療をすることができます。
また、ブリッジは土台の歯の根が割れたり、重度のむし歯や歯周病にならない限り、インプラントと違い手術をせずにやり直しができます。
ブリッジは、次のようなものです。
下記の歯の模型の写真を見てください。奥から3番目の歯が欠損(抜歯)しています。
欠損部のところは、歯根(歯の根っこ)がありませんので、歯の橋が歯ぐきに乗っかっている形になります。
この橋をかける際に、(欠損した歯の)両脇の歯を削って被せる必要があるのです。健康で問題のない歯でも周りを削り、ブリッジの支柱にします。
健康な歯でも、やむなく削らなければならないというのが、『ブリッジ』治療のデメリットの一つです。
欠損した歯の両脇の歯が未治療の歯ではなく、すでに詰め物や被せ物がしてある場合には、躊躇せずにブリッジをお勧めできますが、全く削られていない歯ですと、欠損の両脇の歯を削らなくてもよいインプラント治療などを勧められることが多くなると思います。
また、この写真の事例は欠損した歯が1本ですが、欠損した歯の本数が多かったり、欠損の片側にしか歯がない場合は、ブリッジは適応出来ません。
ブリッジにはもう一つ弱い点があります。
ブリッジの被せ物が歯にピッタリ合っていないと、被せ物と歯との繋ぎ目に歯垢が溜まり、むし歯が再発し易くなるということです。むし歯がブリッジの土台の歯に再発してしまうと、ブリッジをやり直さなければなりません。
むし歯の再発に気が付くのが遅れると、土台の歯が再度使えなくなるくらいむし歯が進行し抜歯になってしまう事もあります。
但し、ブリッジの被せ物の歯とのつなぎ目をピッタリ合わせられる技術があれば、むし歯の再発を大きく下げることができるので、必ずしもブリッジを敬遠する必要はありません。
ピッタリと合う精度の高い被せ物を作るのは高度の技術が必要です。歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使用してブリッジ治療ができること、精度の高い被せ物を作れる歯科技工士と連携していることが重要です。被せ物の『適合』にこだわる歯科医院であれば、むし歯の再発を大きく減らすことが可能になります。
5まとめ
これまで述べてきたように、ブリッジもインプラント治療も、それぞれメリット・デメリットがあります。
よって、良く考慮した上で治療を受けていただけたらと思っています。
ブリッジの欠点は、歯を削る事とむし歯の再発です。ただし、むし歯が再発しなければ、必ずしも悪い治療法ではありません。
インプラント治療にはインプラント周囲炎という欠点があります。インプラント周囲炎は、進行すると骨髄炎を起こしてしまいますが、これは避けたいリスクです。
私の考えとしては、まずブリッジを選択します。歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を用いて、精度の高いブッリジを入れればむし歯の再発が少ないからです。
インプラント周囲炎から骨髄炎を起こす事を考えれば、ブリッジの方が遥かに体に掛かる負担は少ないと考えています。
いずれにしてもブリッジやインプラントをしなければならない状況に陥ってしまう前に、何よりもまずは、歯を最大限残す努力をすることが大切なのです。失った歯は2度と生えてきません。当医院では精密な被せ物と精密な根管治療で、ご自身の歯が少しでも長く使えるよう、極力抜歯にならないように日々努力しています。