2017
8/25
何度治療しても、膿がどうしても治らない根管治療。理由は何故?
何度根管治療をしても膿が治らない。根管治療を繰り返しても治らないのには幾つか理由があります。まずは、その理由と治療法についてご説明します。そして、根管治療が上手くいかないからといって、すぐに抜歯ではなく、別の選択肢があるということをご紹介します。
今回は、患者様からのお悩みではなく、よくある歯科治療の現場の問題を例に、特に知っていただきたい事実をご説明いたします。今回は、何度根管治療をしても膿が治らない理由についてです。根管治療を繰り返しても治らないのには幾つか理由があります。それらの理由と解決法についてご説明します。また、根管治療が上手くいかない=即、抜歯ではない、別の選択肢もあることを最後にまとめていますので、ぜひ、ご覧ください。
残せる歯なら、残して欲しい
ご自身の歯を残すために、最も大切なものが歯の根っこ(歯根)部分です。どんなに、歯根よりも上の部分が虫歯になって歯が少なくなったとしても、歯根さえ残っていれば、歯根に土台を建てて被せ物などの補綴治療を行うことで、歯を残すことができます。
つまり、歯の根っこの治療である根管治療は、長く歯を使っていくためにはとても大事なベースになる治療なのです。
(しかし、それに反して、日本における根管治療の成功率は30〜50%です。)(※データの根拠はこちら)
要するに、歯を残すための大事な治療である根管治療の成功率が低いため、残せる歯も残せなくなっているのが現状です。
ただ、別の見方をすることができます。
歯科医療の発展により、自分の歯根を残さなくても、人工の歯根を埋め込めこみ、そこに被せ物をすることにより咀嚼を回復させることができる(インプラント治療)時代になりました。このインプラント治療の登場で、以前は歯が抜けた後の治療としてブリッジか義歯しか無かったのに対し、現在は歯が抜けても人工歯根を埋め込むという治療の選択肢が増えました。
「高い技術を要する根管治療よりも、人工歯根を選択する」
インプラント治療は一つの選択肢ではありますが、人工歯根は歯肉を貫通しているため感染が起こりやすく、インプラント周囲炎を起こして人工歯根の周りの骨が溶け、人工歯根をしっかり支えられなくなり、埋めたインプラントを撤去しなければならなくなります。
インプラント治療は歯が抜けた後の治療としては素晴らしいものがあるとは思いますが、きちんとした根管治療で根管が残せるケースであるならば、上のリスクを避けるためにも、ぜひ、ご自身の歯を残していただきたいと心から思っています。
「根管治療が上手くいかない=抜歯」と考える前に
それでは、なぜこんなにも根管治療が上手くいかないのか?という点に話を絞ってご説明いたしましょう。
よく寄せられるお悩みで、歯の根っこに溜まる膿が、なかなか治らないというお声が寄せられます。
これがまさに、根管治療が上手くいっていない状態です。
根管治療が上手くいっていないと、歯の根の周りに膿が生じ、被せ物をした後も痛みがでたり、歯ぐきが腫れたりします。どんなに良い被せ物(クラウン)をしてあったとしても、せっかく被せた被せ物を壊して外し、何度も何度も再根管治療をしなければならなくなります。
再治療を繰り返す原因は後に述べさせていただきますが、ここでお伝えしたいのは、きちっとした根管治療を受ければ痛みや腫れが治まる可能性があり、抜歯をしないで済むかもしれないのです。
ただ残念ながら、抜歯せざるを得ない状況もあります。
むしろ、抜歯せずに無理に歯を残す方が、リスクが高い場合もあるのです。
しかし、抜歯に至る前に、正しい診査・診断と適切な治療がされているかが問題です。
それでは、根管治療が上手くいかない場合、その原因は何であるのか、またその後はどのような処置が選択肢になるかについて説明したいと思います。
膿が治らない理由とその治療法
どうしても、歯の根っこに溜まった膿が治らない理由をいくつか整理してご説明します。しかし、これらはあくまでもラバーダム防湿下で根管治療を受けた場合の前提でご説明します。
(根管治療は、ラバーダム防湿を行うべきです。ラバーダム防湿をしないで根管治療を行った場合、唾液と共に細菌が根管に入り込み、根管が汚染されます。)
- 根管が複雑で殺菌しきれていない
- 歯の根が割れている
- 根尖孔外感染もしくは真性嚢胞
上記の3点が考えられます。
これらの3点は、それぞれ原因が異なりますので、当然のごとく対処法も変わってきます。
根管が複雑で殺菌しきれない場合
根管は、非常に複雑で枝分かれしています。
そのため、その複雑に枝分かれしている根管の中に細菌が入り込んでしまっていると、殺菌しきれていない場合があります。
細菌は、目に見えないくらい小さいのです。これら細菌は、細い根管に入り込み、消毒薬が行き届かず細菌が生き残ってしまいます。
その場合は、細菌が潜んでいる根尖(歯の根の先)を外科的に切除し、切断した根の先をMTAセメントという材料で封鎖し感染を除去して歯を残します。
これを歯根端切除手術と言います。
しかし、歯根端切除術も成功率は100%ではなく、術後の切り傷(切開線)が残ってしまうこともあります。また、歯根端切除術は事前に根管がきちんと殺菌・消毒されていないと意味がありません。まずは根管治療に全力をそそぐべきであり、外科手術は、どうしてもダメだった場合の選択肢として残しておくほうが良いと考えます。
※前歯から上下共に第一大臼歯の上顎なら近心頬側根、下顎なら近心根までは歯根端切除術が可能です。
歯の根が割れている場合
根が割れてしまっている時は抜歯となってしまいます。
ただし、大臼歯のように根が複数あり、そのうちの一本のみが割れている場合には割れている根のみを分割して抜歯し、残った歯根を使ってクラウン(被せ物)やブリッジができることもあります。また、歯根が割れている場合は、歯根端切除の適応症になりません。
歯根破折は目視で確認できるとは限らず、歯根端切除手術時に割れているのが初めて確認できることもあります。
近年、CTの画像で破折の診断がしやすくなりましたが、CTでもわからないこともあります。ちなみに、破折した歯を無理に残す治療もされているようですが、これらはリスクを伴います。
根尖口外感染もしくは真性嚢胞の場合
『根尖口外感染』とは、歯の根の先の外側で細菌がはびこっている状態です。
それに対し、『真性嚢胞』は根から離れたところで細菌がはびこっている状態です。
いずれも、歯の根の外に細菌がいるので根管の中を消毒しても良くなりません。根尖口外感染もしくは真性嚢胞の場合も、①と同様に、外科的に根の周りではびこっている細菌を根の先端ごと切徐し、嚢胞も除去します。
上手くいかない根管治療を諦めないで
日本の根管治療の成功率は極めて低く、やり直しの治療に疲れ果てている患者さんも少なくはありません。
そのため、あまりにも根管治療がうまくいかないと、どうしても諦めてしまいがちです。
また『根管治療が上手くいかなかった場合には外科術もある』という書き方をしましたが、当医院の考え方としては、最初から外科手術ありきではなく、きちんと根の中を徹底的に殺菌消毒することで根管治療を成功させることを目指すべきだと思います。
そして、万が一、外科的手術が必要になった場合でも、事前に根管の中を隅々まで綺麗にしておくと歯根端切除術も成功しやすくなります。
きちんとした根管治療を行えば、抜歯せずにインプラントやブリッジにしないで済む場合もあります。ですから、すぐに諦めないで、根管治療の得意な歯科医院に相談してみることが良いと思います。