岡野歯科医院
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役立つ歯のコラム 役立つ歯のコラム

役立つ歯のコラム

『根管治療をしても膿が治らない。』方へ 〜考えられる原因と治療法〜

『根管治療をしても膿が治らない。』方へ 〜考えられる原因と治療法〜

記事概要

根管治療をしても、なかなか膿が治らないケースには、いくつか理由が考えられます。今回は、その主な理由と治療方法についてお話します。

1はじめに

本ブログは患者さんからよせられたお悩みのへの回答を中心に、皆様にぜひ知っていただきたい大切なお話をできるだけわかりやすくまとめて記事にしています。
今回は、患者さんからのお悩みではなく、よくある歯科治療の問題を例に、特に知っていただきたいことを説明します。

当医院には、『根管治療をしているのになかなか膿が治らない。』、『歯茎の腫れが治らない』、『痛みが取れない。』と訴えていらっしゃる患者さんが数多く来院されます。

なぜ根管治療をしているのに治らないのでしょうか。

それにはいくつかの理由がありますので、それらの理由と治療について説明いたします。

2膿が治らない主な理由とその治療法

根管治療(歯の神経の治療)をして治したはずなのに、どうしても膿が治らない、腫れが無くならない、もしくは、痛みが取れないという場合には、まずは、以下の3点を考えます。

  • a.根管の消毒が不十分で細菌が根管内に残っている
  • b.根が割れている
  • c.根尖孔外感染もしくは歯根嚢胞
しかし、ここで気を付けなければいけないことは、a〜cは、あくまでも前回の根管治療時に感染対策としてラバーダム防湿をした上での治療であることが前提条件であるということです。

根管治療時にラバーダム防湿をしないと、唾液とともに細菌が根管内に入り込んでしまい根管に再感染してしまうため膿の治りが悪くなります。今回は、ラバーダム防湿をして根管治療をしたのに治らなかったという場合について、 以下に解説をしていきます。

3根管の消毒が不十分で細菌が根管内に残っている。

歯の神経の通り道である根管は、歯根の中で複雑に枝分かれしていることがあります。

その複雑に枝分かれした根管の中に細菌が入り込んでいると、根管治療で殺菌・消毒しきれなかった場合、根管に細菌が生き残ってしまいます。

また、根管が大きく湾曲していたり、石灰化沈着によりほとんど根管が塞がっていることもあります。
その場合も、根管の中を綺麗に掃除する清掃器具や消毒の薬剤が行き届かず、根管の奥にいる細菌を殺菌できないことがあります。

(マイクロスコープを使用しない)肉眼やルーペ(拡大鏡)での治療では、根管内が細く暗くよく見えないために、枝分かれした根管を目視して確認できず、複雑に入り組んだ根管を見落としたりすることにより根管の隅々まで殺菌・消毒ができないこともあります。

このように根管の複雑性に上手く対応できない場合、治療が不完全に終わってしまうのです。

そうすると、根管に細菌が残ってしまい、根の先に膿ができてしまいます。
その結果、歯肉が腫れたり痛みがでたりします。

根管治療を成功させるには、できるだけ感染をしないように必ず『ラバーダム防湿』をしたうえで、複雑な根管にも対処できるように、歯科用顕微鏡を使用し治療することが重要です。

しかし、最近、当医院には『他院で顕微鏡を使ってもらったのに治らない』という患者さんからの相談が多くあります。

それでは、このようなケースはどうすれば良いのでしょうか?

歯科用顕微鏡を使って治療したにもかかわらず、膿が治らなかったのは、歯科用顕微鏡の使い方に問題がある可能性があります。

考えられる理由の一つとして拡大倍率の問題があります。
歯科用顕微鏡を使うのであれば、倍率を上げて高倍率で治療すべきです。

低倍率では、たとえ歯科用顕微鏡を使ったとしても、ルーペで見た時とほとんど変わりがなく、顕微鏡を使っている意味がありません。

皮肉なことに、低倍率で治療すると、よく見えなくなるので治療スピードは早くなります。

治療が早く終わるかもしれませんが、逆に問題が見えておらず見落としが多くなる可能性が高くなるので、顕微鏡を使っていても予後に思うような結果が出ていないかもしれません。

実際に高倍率で視認しながら治療しているかどうかは、治療後の動画の説明でわかることがあります。

写真(静止画像)では、撮影時だけ倍率を上げている可能性もあり、実際の治療は高倍率でないこともあります。そのため、当医院では治療後の説明は、写真(静止画)ではなく高倍率で継続的に治療していることが分かるよう、治療中の”動画”を見ていただいて説明をしています。

また、高倍率での治療は時間を要します。低倍率では見えなかったことが見え始めるので、なすべきことが増えるからです。それによって治療の成功率が上がるのです。さらに、例え同じ高倍率で見ていても、術者の経験により見ているポイントが違ってきます。高倍率で見ていても経験がなければ、見落としをする可能性があるからです。

そして、より根管治療の成功率を高めるためには、顕微鏡を使うとともにCTの画像を参考に治療を進めることも大事です。

CTはレントゲンと違い、3次元的に根管の状態を確認できますので、根管の曲がった状態や枝分かれした根管も確認することができます。曲がった根管や枝分かれした根管は、顕微鏡で見ても入口しか見えないことが多く、顕微鏡で確認できにくいところをCTでカバーしながら治療することで、よい確実な根管の殺菌・消毒を目指すことができます。

以上のことより、顕微鏡を使った根管治療でも治らないのは、

  • ①実際に高倍率で治療しているか
  • ②治療に必要な時間をかけているか
  • ③術者の経験値
  • ④CT画像を参考にしながら治療しているか

の違いが考えられます。

最後にまとめると、根管の消毒が不十分で細菌が根管内に残ったことによる膿を治すには

  • 1. 顕微鏡を高倍率で使い、根管の見落としをなくすこと
  • 2. CTの画像を参考にして治療を進めること
  • 3. 適切な薬剤を使い徹底的に消毒すること

が必要なのです。

4根が割れている(歯根破折)

次に、根が割れている場合の治療について説明します。

根が割れていても歯を残すことが可能な場合もありますので、まずは①本当に割れているのか、そして、②どのような割れ方をしているのかについて、歯科用顕微鏡下で確認し正しい診断をすることが大切です。

大臼歯のように、根が複数本ある歯の場合、そのうちの1本のみが割れている場合には、割れている根のみを分割して抜歯し、残った歯根を使ってクラウン(被せ物)やブリッジができることもあります。

垂直性破折は抜歯につながりやすいですが、水平性破折は小矯正による挺出または、歯肉を下げる歯冠延長術をすることにより歯根を残してクラウン(被せ物)をすることができることがあります。

割れた歯(破折した歯)を接着するなどして残す治療もされていますが、予後は確かではありません。

5根尖孔外感染もしくは歯根嚢胞

『根尖孔外感染』とは、歯の根の先の外側に細菌がはびこっている状態です。
それに対し、『歯根嚢胞』は、根管内の細菌刺激が原因で根の先の上皮細胞が刺激され嚢胞を形成している状態です。嚢胞とは体内で形成された病的な空洞のことを言います。

いずれも、根の外に細菌がいるので、根管の中を消毒し直してもよくなりません。

このようなケースの場合は、外科的な治療が必要になります。
根の周りにはびこっている細菌を根の先端ごと切除し嚢胞も除去します。

そして、切断した根の先をMTAセメントで封鎖して歯を残します。

これを、『歯根尖切除術』といいます。

しかし、歯根尖切除術をしたとしても、事前に根管がきちんと殺菌・消毒されていないと意味がありません。

根の先の膿だけ取っても、肝心の根管が消毒されていなければ、細菌はまた繁殖するからです(膿が再発)。歯根尖切除術を成功させるには、事前に根管治療をきちんとしてから切除することが大切だと考えています。

6 最後に、膿が治らない 即、抜歯ではない

ご自身の歯を残すために、最も大切なのが歯の根(歯根)です。

そのため、歯の根の治療である根管治療は、長く歯を使っていくためにとても大切な治療です。
しかしながら、日本における根管治療の成功率は30~50%です。(データはこちら

要するに、今の日本の歯科治療では、歯を残すための大切な治療である根管治療の成功率が低いため、残せるはずの歯も残せなくなっているのが現状です。

治らなかったら何度でもやり直せばよいと思っていらっしゃるかたも多いかもしれませんが、やり直せばやり直すほど根管治療の成功率は下がります。

根管治療をやり直す度に、歯は削られて根管の治療器具が引っかかり、それ以上は根管に入らなくなるレッジ(ステップ)ができてしまったり、歯が薄くなってヒビが入りやすくなったり、最悪は根に穴が開いてしまったりと、歯を残す条件はどんどん悪くなっていきます。

以上のことから、できれば最初から成功率の高い根管治療を受けることが、ご自身の歯を長く使っていくために大切なことと考えています。

根管治療は簡単ではないので、再根管治療も上手くいかずに抜歯となることも多いですが、抜歯を宣告されても諦めずに、まずは根管治療の得意な歯科医院に診てもらうことをお勧めします。根管治療の際に使う機材や薬剤にこだわったり、高い技術と経験により、根に膿があったとしても治すことができるかもしれません。

膿がある=即、抜歯とはならないことを、覚えていていただけたらと思っております。

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