根管治療で折れたファイルが残ってしまう『破折ファイル』が再根管治療をはばむ。
記事概要
根管治療を阻む『破折ファイル』。『破折ファイル』とは、根管治療時に根管に残されてしまった治療器具のことです。実は、根管治療(歯の神経の治療)時にはファイルという針状の器具が根管内に折れ込んでしまい外れなくなることがあります。どうしてそういったことが起こるのか、またそれが根管治療にどんな影響を与えるのかについて説明したいと思います。
1はじめに
本ブログは、患者様から寄せられたお悩みへの回答を中心に、患者さんにぜひ知っていただきたい話を、できるだけ分かりやすくまとめて記事にしています。
今回は、患者様からのお悩みではなく、よくある歯科治療の現場の問題を例に、特に知っていただきたい事を説明したいと思います。根管治療で歯科医師なら必ず経験する『破折ファイル』についてです。一般の方にあまり馴染みのない言葉ではありますが『破折ファイル』がどのような状況であるかという事と、それが根管治療を阻んでしまうという大きな問題について書きました。
解説動画
2根管治療の成功を阻む『破折ファイル』という言葉を知ろう。
歯の治療でも多い治療である、歯の根っこの治療(根管治療)は、比較的身近な歯科治療ではないでしょうか?
むし歯が重症化してしまい、止む無く歯の神経を取らなければならなくなった状態でも、抜歯せずに歯を使えるようにするための治療が根管治療です。
つまり、根管治療とは、重症化なむし歯から歯を助け、更に歯を長く使っていくためのベースとなる、とても大事な治療なのです。
そして、その歯を今後もきちんと使っていけるかどうかは、その根管治療が成功するか否かにかかっていると言っても過言ではありません。
(日本における根管治療の成功率は30〜50%。詳細はこちらのページを御覧ください。)
しかし、歯科治療の中でもとても重要な治療にも係わらず、成功させるためには様々なハードルがあります。その中でも、根管治療を阻むケースがあるので、今回はその一つについて説明したいと思います。
それは、『破折ファイル』です。『破折ファイル』なんて、あまり耳にしたことは無いでしょう。
『破折ファイル』とは、簡単に言えば、根管治療時に根管に残されてしまった異物(遺物?)です。実は、歯科医療の根管治療の現場においては、『破折ファイル』という残留物を根管内に残してしまう事があるのです。
歯の根の中に残留物が残る…..と聞くと、一般の方々は、『怖い!』と思うかもしれません。しかし、根管治療をする歯科医は、破折ファイルを必ず経験をします。
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3『破折ファイル』はどうしても起こる。
“歯の治療をしたのに異物が残るってどういうこと?”
とても驚いたのでは無いでしょうか?
根管治療では、根管形態に適応した『リーマー、ファイル』と呼ばれる治療器具を使用します。この『ファイル』という器具ですが、繰り返し、もしくは雑に使うと非常に細く折れやすい特徴を持っています。『ファイル』とは、いわば針のような器具です。これを使って、根管内を綺麗に清掃します。
しかし、その『ファイル』が、治療の過程で根管の中でしばしば折れるのです。
なぜなら、歯の根の中の根管というものは、曲がっていたり、枝分かれしていたりしていて、とても複雑な構造をしています。根管が複雑に曲がっているが故に、何回も使いまわすと何回も曲げられて金属疲労を起こし、そこに無理な(雑な)ファイルの操作力が掛かると根管の壁に食い込んで『ファイル』が根管の中で折れ込みます。
研究報告によると、数%の確率で生じます。
これら、根管治療に使用する器具(リーマー、ファイル)は通常、ステンレス製かニッケルチタン製なので、 根管の中に残っても溶けたり腐蝕したりしないので、これら金属が残っていても、体に影響をおよぼすことはほとんどありません。
しかし、この先からが、当ブログで説明したい事です。
では、『破折ファイル』の何が問題なのかという点に触れます。
それは、折れてしまった『ファイル』が根管の壁に食い込んで引っかかってしまい、簡単には外れず『ファイル』が根管を塞いで、その後の根管治療に支障をきたしてしまう事です。
つまり、再根管治療の時に、この『破折ファイル』が障害物になってしまうということです。
先程、『金属が残っていても、体に影響をおよぼすことはほとんどありません』と書きました。もちろん、『破折ファイル』が残留していたとしても、痛みが無かったり歯の根の周りに膿が溜まっていないようなら、ファイルが根管の中に残っていても大きな問題にならない事もあります。
通常は、根管に折れ込んだファイルは除去を試みますが、除去することによって根を傷めてしまう恐れがある場合はあえて除去せずに根管治療を完了する場合もあるのです。
しかし、根管の中に残った『破折ファイル』が原因で、痛みや歯の根の周りに膿を持ってしまった場合は、『破折ファイル』が折れこんでいる先に感染が残っている可能性があります。こういった場合には、『破折ファイル』を除去して感染をとらなければなりません。
しかし、破折ファイルは除去が難しいことも多く、しっかり根管に食い込んでしまうと、通常の根管治療では除去できずに、そのままになってしまう。そうなると再根管治療がそれ以上進まないということを起こすのです。
下記は、破折ファイルが折れこんでいる歯のレントゲン写真です。白く線状に見えるのが破折ファイルです。(Photo.2)
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4『破折ファイル』は顕微鏡を使うと除去しやすい。
では、『破折ファイル』により感染が除去できずに炎症が起きているため、ファイルを除去しなければならない状態であれば、どうすべきでしょうか?
『速やかに除去して欲しい!』と思われるのが普通です。
しかし、肉眼やルーペでは根管の中がよく見えないため『破折ファイル』の除去は、通常は困難を極めます。細く暗い根管の中をきちんと見ることができる、治療用歯科顕微鏡下でないと、うまくいかないのです。
また、歯科用顕微鏡の他にも『破折ファイル』除去専用の機材も必要です。さらに、CTスキャンによる『破折ファイル』の長さや位置の確認、根管の曲がり具合や根管の壁の薄さの事前のチェックも重要です。(当院はCT完備です)
このように、様々な専門的な治療機器を取り揃え、それらを使いこなし読影できる高度な歯科治療が破折ファイル除去には必要であるということなのです。
顕微鏡歯科治療を専門としている私でさえ、歯科用顕微鏡やCTを導入していなかったら、今でも、適切に『破折ファイル』を除去できていなかったと思います。
『ファイル』の破折はどうしても起こってしまう事ですが、根管内で出来るだけ破折しないように、常に新品のファイルを使う、もしくはファイルを出来るだけ使わないような根管治療をする、などの配慮をすることも重要です。そして、万が一、根管内に『ファイル』が折れこんでしまったとしても、『破折ファイル』を除去する技術を備える事も必要です。
当医院における根管治療は、すべて自由診療(保険外診療)ではありますが、毎回、新品のファイルで治療するよう心がけています。『ファイル』の使い回しをしない事だけでも、ファイルが折れた時の感染リスクを低減できると思うからです。
慎重に治療したいかたは、事前にかかりつけ歯科医院に確認された方が良いでしょう。
万が一、『破折ファイル』が根管内に残存していても、抜歯せずに残せるかもしれません。ぜひ、再度、適切な根管治療をすることをお勧めしたいと思っております。