2017

8/17

根管治療で折れたファイルが残ってしまう『破折ファイル』が再根管治療をはばむ。

記事概要

根管治療を阻む『破折ファイル』。『破折ファイル』とは、根管治療時に根管に残されてしまった異物のことです。実は、歯科医療の現場では『破折ファイル』という残留物を根管内に残してしまう事がよく起こります。どうしてそういったことが起こるのか、またそれが根管治療にどんな影響を与えるのか等を詳しく説明します。

本ブログは、患者様から寄せられたお悩みへの回答を中心に、皆様にぜひ知っていただきたい大切なお話を、できるだけ分かりやすくまとめて記事にしています。

今回は、患者様からのお悩みではなく、よくある歯科治療の現場の問題を例に、特に知っていただきたい事実をご説明いたします。根管治療の現場でよく起こる『破折ファイル』です。一般の方にあまり馴染みのない言葉ではありますが『破折ファイル』がどのような状況であるかという事と、それが根管治療を阻んでしまうという大きな問題について書きました。是非、お読み下さい。

根管治療の成功を阻む『破折ファイル』という言葉を知ろう。

歯の治療でも非常に多い治療である、歯の根っこの治療(いわば、根管治療)は、とても身近な歯科治療ではないでしょうか?

虫歯が進行してしまい、止む無く歯の神経を取ってしまわなければならなくなった状態でも、抜歯せずに歯を使えるように行われるのが根管治療です。

つまり、根管治療とは、重症化したむし歯から歯を復活させ、長く歯を使っていくためにベースとなる、とても大事な治療であるということを、改めて強調させていただきます。

そして、その歯を今後もきちんと使っていけるかどうかは、その根管治療が成功するか否かにかかっていると言っても過言ではありません。
(日本における根管治療の成功率は30〜50%。詳細はこちらのページを御覧ください。)

しかし、歯科治療の中でも非常に頻繁に行われるにも係わらず根管治療は非常に難しく、成功させるためには様々なハードルがあります。その中でも、根管治療を阻む困ったケースがあるので、今回はそちらについてご説明したいと思います。

それは、『破折ファイル』です。『破折ファイル』なんて、あまり耳にしたことは無いでしょう。しかし、歯科では非常にメジャーな言葉です。

『破折ファイル』とは、簡単に言えば、根管治療時に根管に残されてしまった異物(遺物?)です。実は、歯科医療の根管治療の現場においては、『破折ファイル』という残留物を根管内に残してしまう事があるのです。

歯の根の中に残留物が残る…..と聞くと、一般の方々は、瞬間的に『怖い!』と思うかもしれません。そこは、以下に丁寧にご説明しますので、あまり過剰反応せずに、引き続き本記事をお読み下さい。

『破折ファイル』は一般的によく起こる。

“歯の治療をしたのに異物が残るってどういうこと?”

とても驚いたのでは無いでしょうか?あまり過激な事を説明するつもりはありませんので、以下に丁寧に、その理由を説明していきます。

根管治療では、とても精密にできた『リーマー、ファイル』と呼ばれる治療器具を使用します。この『ファイル』という器具ですが、繰り返し、もしくは雑に使うと非常に細く折れやすい特徴を持っています。『ファイル』とは、いわば針のような器具です。これを使って、根管内を綺麗に清掃します。

しかし、その『ファイル』が、治療の過程で根管の中でしばしば折れるのです。

なぜなら、歯の根の中の根管というものは、曲がっていたり、枝分かれしていたりしていて、とても複雑な構造をしています。根管が複雑に曲がっているが故に、何回も使いまわすと何回も曲げられて金属疲労を起こし、そこに無理な(雑な)ファイルの操作力が掛かると根管の壁に食い込んで『ファイル』が根管の中で折れ込みます。

研究報告によると、数%の確率で生じます。

これら、根管治療に使用する器具(リーマー、ファイル)は通常、ステンレス製かニッケルチタン製なので、 根管の中に残っても溶けたり腐蝕したりしないので、これら金属が残っていても、体に影響をおよぼすことはほとんどありません。

しかし、この先からが、当ブログでご説明したい事です。

では、『破折ファイル』の何が問題なのかという点に触れてみます。

しばしば折れてしまった『ファイル』が根管の壁に食い込んで引っかかってしまい、簡単には外れないため『ファイル』が根管を塞いで、その後の根管治療に支障をきたしてしまう事が起こります。

つまり、根管治療の再治療の時に、この『破折ファイル』が障害になってしまうということです。

先程、『金属が残っていても、体に影響をおよぼすことはほとんどありません』と書きました。もちろん、『破折ファイル』が残留していたとしても、痛みが無かったり歯の根の周りに膿が溜まっていないようなら、ファイルが根管の中に残っていても大きな問題にならない事もあります。

(日本歯内療法学会掲載文参考:http://www.jea.gr.jp/ippan/index-5.shtml#a13

治療においては、金属を除去できる場合は除去を試みますが、除去することによって根を傷めてしまう恐れがある場合はあえて除去せずに 根管治療を完了する場合もあるのです。

しかし、根管の中に残った『破折ファイル』が、ひとたび、痛みや歯の根の周りに膿を持ってしまった場合は、『破折ファイル』が折れこんでいる先に感染が残っている可能性があります。こういった場合には、『破折ファイル』を除去して感染をとらなければなりません。

しかし、一度折れてしまうと除去が難しく、複雑に折れ込んでしまうと、通常の歯科治療では除去できないので、そのままになってしまう。そうなると根管治療の再治療が進まないということを知っておいていただければと思います。

下記は、破折ファイルが折れこんでいる歯のレントゲン写真です。白く線状に見えるのが破折ファイルです。

『破折ファイル』は顕微鏡を使わないと除去できない。

では、『破折ファイル』により感染や炎症が起きているため、ファイルを除去しなければならない状態であれば、どうすべきでしょうか?

もちろん、一般の方々は『速やかに除去して欲しい!』と思われるでしょう。そう感じるのは当然のことだと思います。

しかし実は、『破折ファイル』の除去は、肉眼やルーペでは根管の中がよく見えないため非常に困難で、細く暗い根管の中をきちんと見ることができる、治療用歯科顕微鏡下の操作でないと、うまく行かないのです。

また、歯科用顕微鏡の他にも『破折ファイル』除去専用の機材も必要です。さらに、CTによる『破折ファイル』の長さや位置の確認、根管の曲がり具合や歯の薄さの事前のチェックも重要です。(当院はCT完備です)

このように、専門的な医療機器を取り揃え、それらを使いこなし読影できる高度な歯科治療が必要であるということを、このブログ記事では強調したいと思います。

顕微鏡歯科治療を専門としている私でさえ、歯科用顕微鏡やCTを導入していなかったら、今でも、適切に『破折ファイル』を除去できていなかったと思います。

『ファイル』の破折はどうしても起こってしまう事ですが、根管内で出来るだけ破折しないように、常に新品のファイルを使う、もしくはファイルを出来るだけ使わないような根管治療をする、などの配慮をすることが最も重要です。そして、当然の如く、万が一、根管内に『ファイル』が複雑に折れこんでしまっても、適切に『ファイル』を除去する技術を備える事も必要です。

最後に付け加えれば、当医院における根管治療は、すべて自由診療(保険外診療)ではありますが、毎回、新品のファイルで治療するようにしています。『ファイル』の使い回しをしない事だけでも、ファイルが折れた時の感染リスクを低減できると思うからです。

慎重に治療したいかたは、事前にかかりつけ歯科医院に確認された方が良いでしょう。
万が一、『破折ファイル』が根管内に残存していても、抜歯せずに残せるかもしれません。ぜひ、再度、適切な根管治療をすることをお勧めしたいと思っております。

以下は当医院での破折ファイル除去の動画です。これは実際の肉眼の30倍まで拡大した状態での治療です。如何に肉眼や拡大鏡では無理な治療であるかを理解いただけると思います。

動画ダイジェスト

(1)根管治療の再治療を開始したところ、破折ファイルが根管内に残留していることが分かりました。
(2)超音波振動によって、破折ファイルの除去を試みました。
(3)しかし、なかなかでてこないので、特殊な針金の輪をかけて、破折ファイルの除去をすることにしました。
(4)破折ファイルが出てきました。
(5)根管から除去された破折ファイルです。とても長い事がお分かりいただけるでしょう。